vol.02 Novacoopの教育プログラム

Novacoopの教育プログラム内容

2012年から2013年実施の14のプログラムの内、我々は2週間かけて「Merende & Co(おやつ・お菓子について)」「Le mani in pasta(何かにどっぷりはまる様子・社会問題)」
「Viaggio in bottiglia(ボトルの中の旅:「水」)」「Gnamgnammondo(世界をもぐもぐ)」という4つのプログラムを視察した。

プログラム内容は、現在のイタリア及び、トリノ周辺で抱える食や社会問題に関するものが多く取り上げられ、特にイタリア独特の「メレンダ(MERENDE)」というおやつの文化に関するプログラムは、イタリア独自の食教育の1つだと思われる。

イタリアでは、夜の食事は8時過ぎから食べる方が多く、夜遅くまでワインとともに食事を楽しむ。そのため朝食は、カフェと甘いものを少し食べる程度の軽食をとる方が多く、学校での昼食も13時過ぎからという学校がほとんどなので、朝食から昼食まで、日本より時間がある。そのためかどうかは定かではないのですが、10時過ぎから「メレンダ」タイムがどの学校でもある。チャイムがなり、みな一斉にバックからお菓子や軽食(パンにハムやチーズを挟んだパニーノなど)を食べ始めていた。日本では見られない光景に、びっくりしたのを覚えている。

トリノのあるピエモンテ州はジャンドゥーヤを代表とするチョコレート菓子でも有名で、多くの子どもたちはチョコレートが大好き。中でも「ヌテラ(Nutella)」という、ヘーゼルナッツペーストをベースに砂糖、ココア、脱脂粉乳、香料、乳化剤などの材料を混ぜ合わせた、チョコレートクリームは子どもも大人も大好きで、イタリアの国民食ともいわれるお菓子。しかし、こうしたお菓子を昼食前に摂りすぎてしまい、昼食を食べられない子どもたちが増えており、メレンダの質や摂り方について、学校、家庭ともに関心が高まっているとのこと。そのため、実施されていた14のプログラム中、7つ以上のプログラムでメレンダについて扱っており、お菓子の摂り方に対する関心の高さが伺えた。

プログラムの実施方法は、ほぼ全てのプログラムが2回の構成になっており、多くの場合、1回は学校、もう1回はnovacoopの店舗でプログラムが実施され、1回のプログラムは2時間。プログラム風景も日本の学校での授業と比べて、講師(アニマトーレ)と生徒たちの関係は非常にフランクで、ペンなどは持たずに、アニマトーレが掲げる質問に対して、生徒たちは自信を持って自分の意見を述べているのが印象的だった。

MERENDE & CO. (お菓子&CO.)のプログラム

このプログラムでは、小学4年~中学1年が対象のプログラムで、1回目は店舗、2回目は次の週に学校で行われていた。店舗でのプログラム内容は、まず日頃どんなお菓子を食べているか、アニマトーレが生徒一人ひとりに質問し、全員が自分のお菓子の食べ方や、好きなお菓子、またその理由などについてディスカッションが行われる。その際、生徒たちが好きだと発言するお菓子の多くがCMでよく流れているスナック菓子やチョコレート菓子。するとアニマトーレから、みんなが買うお菓子は、CMが流れている量に比例していることが良くわかること、お菓子の購買にはCMの影響が非常に強く出ていることなどを説明し、お菓子とメーカーのプロモーションの関係について語っていた。一見、メーカーの皆さんがお聞きになったら、メーカーのマーケティング努力を否定されている様で、がっかりするような内容であっても、自分の眼でしっかり商品を選ぶために必要な知識を身に付けてほしいという姿勢がうかがえた。

  • 小学校の教室でスナック菓子の授業 小学校の教室でスナック菓子の授業
  • 3種類のポテトチップスのテイスティング 3種類のポテトチップスのテイスティング
  • 食べ比べた後は、1つずつ味の評価 食べ比べた後は、1つずつ味の評価
  • 評価は、5段階(とっても美味しい~まったく美味しくない)。イラストで分かりやすい。 この評価表は脳の発達段階・言語の理解度によって使い分ける 評価は、5段階(とっても美味しい~まったく美味しくない)。イラストで分かりやすい。 この評価表は脳の発達段階・言語の理解度によって使い分ける

ディスカッションの後は、グループワーク作業。中学1年生のクラスでは4班程度に分かれ、お菓子に関して以下の表のお題が与えられ、そのお題に合った商品をグループごとに店内で探し、その後店頭で探してきたお菓子をもとに、各商品の特徴をラベル表示から学び、ディスカッションが行われていた。

このプログラムの要旨は、ラベル表示をもとにした店頭での商品選びや、学校での五感を使った商品選びを通して、商品の選択基準を広告だけに頼るのではなく、自分の感覚で商品を選ぶことの大切さを伝えることにある。したがって、自分の眼で商品を選べるようになるためにも、ラベル表示の見方が非常に大切であることが、このプログラム視察を通して実感することができた。

「Gnamgnammondo(世界をもぐもぐ)」~食の楽しさ・おいしさを感じるプログラム~

おやつのプログラムの他に、非常に印象に残っているのが、「Gnamgnammondo」というプログラム。小学生を対象に行われ、食を軸に異文化を理解し、楽しい雰囲気の中で食べ物の原産地だけでなく、近隣や遠方の国の香りや料理の名前、伝統や食文化を知るためのプログラム。イタリアは多くの国と国境を接しており、移民の生徒も多いことから、プログラムの背景にある社会的意義も大きいと感じた。

このプログラムも2回構成で行われ、各回2時間のプログラム。1回目はトリノ市内にある小学校で行われた。我々が視察させていただいたのは小学校2年生のクラス。1回目のプログラム内容は、生徒一人ひとりに好きな食べ物について10分程度聞いていき、そのあとグループワークがスタート。

アニマトーレはおもむろにランチ用のバッグとコック帽を出してコックに扮し、「最近レストランを開いたんだけど、なかなかいいレシピが思いつかないから、みんなで考えてくれないかな」と呟き、クイズがスタートしました。クイズは、ランチバッグに入っていた食材(人参、スパゲティ、アボカド、ほうれん草、カボチャなど15種類ほど)を、お伽噺や童話を題材にしており、例えば「ポパイが食べると強くなる野菜は何?答え:ほうれん草」「シンデレラが乗っていた乗り物は何でできている?答え:かぼちゃ」といった具合です。こうして全ての食材がなくなるまでクイズを行い、その後獲得した食材を使って、メニューを考えてほしいとアニマトーレが語りかける。すると子供たちはグループのみんなで協力し合って、必死にメニューを考えていた。メニューができたら、各グループのメニュー発表が行われる。その中の1つを紹介したい。

あるグループが獲得した食材は、ピーナッツ、スパゲティ、ほうれん草、紅茶。この食材を使って提案してくれたメニューは、「ほうれん草とピーナッツをペースト状にしてスパゲティに混ぜて、紅茶は食後に飲んだらいいと思う」というもの。何とも美味しそうなメニューを小学2年生が考え、堂々と発表している姿は、本当に驚きだった。イタリアの食教育の凄みを感じる場面でもあった。グループごとにメニューを発表し、アニマトーレから「今日は素敵なメニューを考えてくれてありがとう。さっそくレストランのメニューで出してみるわ。来週はお店で美味しいメニューを作るからまたよろしくね」と言ってその日のプログラムを締めくくっていた。

みんな自分たちが考えたメニューを作ってくれるとアニマトーレから聞いた瞬間、目がキラキラとしていたのが印象的だった。Novacoopの消費者教育プログラムは子どもたちに楽しく食を学んでもらう仕掛けがたくさん設けられており、アニマトーレ自身もプログラムの時間を楽しんでいる、そういったプログラムを作り続けてきたことがNovacoop財産になっているのだと感じた。

2回目の授業はNovacoopの店舗で行われた。導入部分では「前回はみんな素敵なメニューを考えてくれてありがとう。さっそくお店でみんなのメニューを出したら、お客さん、みんなが喜んでくれたわよ。ありがとう」とアニマトーレが語ると、子どもたちからは満面の笑みがこぼれていた。

その後、「今日は世界の美味しいメニューを作ってみましょう」ということで、「Gnamgnammondo(世界をもぐもぐ)」の調理プログラムがスタート。この日のメニューは、モロッコのビスケット、エジプトのヨーグルトソース、イタリアのマルゲリータピザ、中国のクッキー。このメニューもアニマトーレらが、月に1度集まる会議で、年齢ごとに適したメニューを考え、レシピ化していた。Novacoopのアニマトーレは、情報や意見交換を十分に行い、プログラム内容ブラッシュアップしており、このアニマトーレの綿密な情報共有及び連携が消費者教育プログラムの質の維持・向上に繋がっているのだと感じた。

生徒たちは、食に関するクイズに答えた順に好きな国のメニューを選び、さっそく調理開始。イタリアでは1クラス25名ほどで、1名の先生と補助員の先生が担当しているので、アニマトーレを含めて3名の大人で子どもたちの調理のサポートをしていた。調理は、日本ではちょっと危ないと思うようなハーブ用の両手包丁を、大人たちが見ていないところでも使わせるなど、こちらが緊張する場面もあり学校教育での安全に対する考え方の違いも肌で感じた。またイタリアの先生方は個性的な方が多く、子どもたちがつまみ食いする前に、先生がまだ焼いていないビスケットの生地をつまみ食いするなど、アニマトーレが「Mamma Mia!」と叫びたくなったであろう場面が何度となくあり、先生方の違いに触れ、また楽しい時間でもあった。

そして、1時間程度かけて調理をした後は、いよいよ試食の時間。子どもたちは、「みんなよく頑張りました。それではみんなで食べる前に、どんな料理を作ったのかみんなの前で発表してから食べましょう」とアニマトーレから指示が出ると、今度はどんな発表をするのか子どもたちが話し合い、発表の時間。するとある班は、どんな料理を、誰が作ったのかという説明を、歌にしながら発表していた。アニマトーレと先生方は、子どもたちのプレゼンテーションが想像以上に良くできたので、「Bravissimo!(なんて素晴らしいの!)」と驚きとともに、子どもたちを称賛していた。イタリアの子どもたちのプレゼンテーション力に驚くとともに、こうした食教育を通しても、人前で自分の気持ちを伝える能力の開発を同時に行うことができるのだということを学ぶことができた。

Novacoopの消費者教育から学んだこと

こうして2週間以上にも渡る視察で感じたのは、Novacoopの消費者教育は、食べること・作ることの楽しさを感じることに力点が置かれているということ。情報伝達型の教育とは一線を画すものであり、日本の食教育に必要な要素だと感じた。

そして、Novacoopの消費者教育を含むイタリアの食教育は、きわめて”多様”であり、更なる発展段階にあると感じた。多様性は言語にも現れており、食教育という単語も「Educazione alimentare」(食教育)」、Novacoopをはじめとする生活協同組合では「Educazione consumatore consapevole」(消費者教育)」という単語で表現されることからも感じ取ることができる。

こうして、Novacoopの食教育とともに、イタリア全体の食教育を概観し気づいたことは、食教育を仮に「食に興味を持つ、食を見つめなおす、意識する」と定義すると、食に関わる全ての人が食教育の当事者であり、生活協同組合を含む多くの機関が連携しながらも独自性を非常に大事にし、決して誰かの真似やマニュアルに沿った食教育はしていなかったということもイタリアの食教育のポイントだと思われる。各機関がオリジナリティ溢れるプログラムを実践することで、食教育の幅が広がっていると同時に、実践の蓄積によって質の高い体験型の食教育を実現していることがイタリアの食教育の強みだと感じた。そして多くの期間が食教育をする中で共通していたことは、食教育を通して、どの業態も自身の付加価値を確実にアップしていたこと。この付加価値の源泉は、”経験(体験)”であり、シュミットが提唱した経験価値の概念にある、5つ要素(SENSE(感覚的経験価値)、FEEL(情緒的経験価値)、THINK(創造的・認知的経験価値)、ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)、RELATE(準拠集団や文化との関連づけ))を満たすものであり、”経験価値”はイタリアの食教育のキーワードであり、今後の日本の食教育でも欠かせない要素になると感じた。

その中で生活協同組合が食教育を実践するうえで欠かせない要素は、消費者としての商品を選ぶ目の育成と、他の業態ではできない店舗を活用した食教育の実践だと思う。未来の消費者の育成が生活協同組合の持続可能性を担保することにも繋がっていくのだと感じた。そして、生活協同組合の食教育における”機能”は、各機関を繋ぐオーガナイズ機能を果たすこと。イタリアでは独自性を維持することからか、特に生産者との繋がりが希薄であるように感じた。食の源流を学ぶ上で生産現場の理解は不可欠であり、生産者が農作物について語る場、及び販売する場の確保を生活協同組合がすることの重要性はさることながら、各機関を繋ぐ期間が必要。最終消費者である組合員に一番近い、小売り機能ももつ生活協同組合だからこそオーガナイズ機能を果たす意義は大きいと感じている。そして、食教育を核に食による価値連鎖の創造(食教育バリューチェーン)を実現し、食を通じた北海道への貢献を今後実践していきたい。

コーディネート・通訳:中野美季
2013年4月 星野浩美

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