【第10回】農業大賞(2017年)
農業大賞 北海道知事賞
ハスカップファーム山口農園(厚真町)
「日本一の産地」をめざして産地拡大に尽力
勇払原野原産のハスカップ。園主・山口さんの母である美紀子さんが野生のハスカップ1000本を移植したのは1978年のこと。大きくて甘い品種を求めて選抜育種を行い、2009年に「ゆうしげ」「あつまみらい」を品種登録しました。山口さんは品種を独占することなく、「苗木を町外に持ち出さなこと」を条件に、町内生産者に増殖を許可。町もその熱意に応えて支援を行い、当時60軒ほどだったハスカップ農家は100軒に増え、厚真町は日本一のハスカップ産地となりました。付加価値を高めるため、数年前からは自然栽培にも取り組んでいます。
加工品の製造・販売など6次産業化にも積極的
ハスカップのおいしさを一人でも多くの人に知ってもらうため、山口さんは奥様と二人三脚でジャムやスイーツなどの加工品製造・販売にも取り組んでいます。2012年に6次産業化事業の認定を得て、2014年からは移動販売車によるハスカップスイーツの販売もスタートしました。ハスカップの表皮をイメージした黒い生地のハスカップクレープは子どもたちにも大人気で、近郊のみならず道内各地で販売し、好評を得ています。
今後も山口さんは後継者問題の課題解決に向けて町や農協と一体となって担い手づくりに取り組むといいます。
素晴らしい生産者の方々がエントリーされている中で、このような賞をいただけたことは本当に身に余る思いです。就農以来、「日本一の産地になること」を目標に、母が育てたハスカップを広めようと果実生産、苗木販売、加工品製造・販売等に励んできました。高齢で離農を考えていた方から、ハスカップ栽培をきっかけに後継者が戻ってくることになったという話を聞きました。ハスカップは私たち家族の夢であり、厚真町のみんなの夢でもあります。これからも「日本一のハスカップのまち」を守り育てるために、いっそうの努力を重ねてまいります。
(写真:園主 山口善紀さん)
農業賞 コープさっぽろ大賞
坂口農産(富良野市)
土壌環境を生き返らせる土づくり
淡路島から入植し、坂口さんで5代目。現在はメロン、かぼちゃ、玉ねぎ、米、小麦などを生産しています。後継者が就農した当時は慣行栽培でしたが、ヤマカワプログラムとの出会いを経て、化学肥料で疲弊した土壌環境の蘇生に主眼を置いた農法を追及しています。さらには植物が本来持つ栄養成長や生殖成長のエネルギーを最大限に生かすため、施肥管理・肥培管理を見直し、植物が病気になりにくく害虫がよってこない農地をめざした取り組みを進めています。それらの研究の結果、棚持ちが良く、えぐみの少ない農産物の栽培を実現しています。
地域の農業を維持するため経営基盤を強化
坂口農産のある富良野市山部地域は米やメロンを中心とした小規模農家が主体です。高齢化による離農はこの地域においても深刻で、坂口さんは「地域の受け皿になりたい」と、農地の受け入れを積極的に行います。2013年には法人化し、規模拡大と担い手づくりを本格化しました。現在は雇用を進め、ベトナム人研修生の受け入れも行い、農産物の増産に努めてまいります。 おいしく安全な野菜作りの追求と同時に地域農業の維持と持続可能な地域形成に向けて取り組む姿は、北海道農業のモデルになりうると評価されました。
私たちの取り組みを評価していただき、たいへん光栄です。「メロンを極めたい」とさまざまな農法を追及する中で、化学肥料を控え、緑肥・堆肥をすきこむ現在の農法にいたりました。かつては収量を追い求めた時期もありましたが、おいしさの追求がお客様の満足度を高め、売上向上と経営の安定につながることを知りました。これからもお客様を第一においしい農産物を提供しながら、経営面での足腰をしっかりと鍛え、高齢化により離農する農地を引き受けて「地域の受け皿」となり、北海道農業に貢献できるよう努めます。
農業賞 優秀新規就農者賞
えづらファーム(遠軽町)
東京でのサラリーマン生活から一転、北見へ移住したのは2009年。それから3年間の農業研修を経て新規就農を果たしました。一般的には小規模でスタートするところ、江面さんは最初から大規模畑作に挑戦。42ha(東京ドーム8個分!)の農地でビートや小麦、ジャガイモなどを栽培しています。地域の中で堆肥を循環させる農法や貯蔵技術にこだわったジャガイモづくりに加え、農家民泊でのヒンメリ(フィンランド発祥の伝統装飾品)による地域おこし、住み込みバイトの受け入れなど斬新なアイディアで人口過疎地域における産地形成に挑んでいます。
農業賞 特別賞
石田めん羊牧場(足寄町)
おいしさへのこだわりから「羊肉の王様」と呼ばれるサウスダウン種をベースに、他品種を掛け合わせて安定的な羊肉生産を実現。その肉質は札幌の名だたるシェフからも高い評価を得ています。また6次産業化認定を取得し、自らも「ヒツジ堂」というレストランを展開。羊をまるごと使うため加工品にも力をいれています。
駒谷牧場(様似町)
駒谷牧場の牛たちは生まれたから出荷するまで牛舎に閉じ込められることなく、様似の山中で通年昼夜完全放牧されています。牛は常に自由で、完全有機の牧草や牧場内に自生する山菜・野草を好きな時に好きなだけ食べます。さらに交配・分娩・哺育も牛まかせ。牛が本来持つ能力を生かした飼育を実践しています。
クリーマリー農夢(旭川市)
新規就農から20年あまり一貫して「アニマルウェルフェア酪農」の実践に取り組んでいます。アニマルウェルフェアとは畜産動物がストレスフリーで健康的な生活ができる状態にあること。牛たちは自由に放牧地と牛舎を行き来でき、青草と飼料(動産品率80%)を食べて過ごします。チーズづくりにも定評があります。
農業賞 奨励賞
山本農産(大空町)
かつては慣行農法で畑作を行ってきましたが、59歳の時に有機農法による少量多種品目に切り替えました。自然農法をもとに自家製堆肥と有機認証資材(有用微生物群・有機肥料)を使用した栽培に取り組んでいます。また、経営面では季節にあった野菜セット販売するといった工夫も。食育活動にも積極的に取り組んでます。
十勝うらほろ高橋農園(浦幌町)
ラズベリー栽培面積日本一。広大な十勝の土地と冷涼な気候を利用して株間や条間を広く取った「十勝式」農法の実践により、管理・収穫効率の向上、無病化、知力を低下させない土づくりを実現しています。栽培~加工まで一貫型事業に取り組み、完熟収穫したラズベリーで作るジャムやスイーツは濃厚で味わい深いと評判です。
宇野牧場(天塩町)
道北天塩町。日本海の潮風と雄大な野山がもたらす自然の恵みにあふれた環境の中で放牧酪農をしています。自然分娩にこだわり、新たに搾乳ロボットの導入を進めています。自然な味わいの生乳を生かしたミルク豆腐「トロケッテ・ウーノ」「パンナコッタ・ウーノ」を開発加工し、自社ネットショップなどで販売しています。
杉村農園(網走市)
平飼いで自然の恵みをたっぷりと与え、薬剤しようせず健康な母鶏で育てる自然卵養鶏を実践しています。飼料は国産100%で自家配合。できるだけオホーツク産の山海の幸をもとに素性の知れた良質なエサを与えています。加工食品も地元食材を使うよう努めるなど、オホーツクの地と一体となった取り組みを進めています。
山田農場(七飯町)
七飯町の3haの放牧地に30頭のヤギと5頭の羊を放ち、毎日搾る新鮮なミルクでチーズを作っています。自給自足をめざし畑や果樹栽培にも励み、その土地の循環の中で「小さく暮らす」ことを実践している山田さん。チーズづくりも、環境にレシピを合わせるという考えをもとに「この土地のチーズ」づくりに取り組んでいます。
漁業賞 コープさっぽろ大賞
厚岸漁業協同組合(厚岸町)
「厚岸生まれ、厚岸育ち」のカキをブランド化
厚岸といえばカキの産地として有名です。ところが昭和50年代後半に大量へい死するという事件が起き、それを機に地蒔き式から現在の垂下式養殖への転換を行いました。また、大量へい死の背景には、森林の減少、湖や海への泥水流入があったことから、山・川・海の環境をしっかりと守ることに町全体で取り組んでいます。
数年前からは「厚岸生まれ、厚岸育ちの純厚岸産カキ」を復活させる取り組みを展開し、1999年には国内初のシングルシード(稚貝)を育てるカキ種苗センターを開設しました。その後、差別化を図るため純厚岸産カキのブランド化に努めるなど、生産から販売にいたるまで、北海道の漁協として先進的な取り組みを行っています。
漁業賞 特別賞
蛯名漁業部(羽幌町)
少量ながらえびを傷つけずに水揚げする「えびカゴ漁」を採用し、生きたまま船内水槽で港まで運んですぐに酒蒸しし、急速冷凍。甘エビのイメージが変わるおいしさと評判を集めています。加工を担当するのは地元の主婦たち。「子育てや家庭も大切に」という方針のもと、自社加工場に育児スペースを併設しています。
漁業賞 奨励賞
川口洋史(北見市)
川口洋史(きよふみ)さんは漁師三代目。「魚食系男子project」を企画し、漁業における6次産業化をめざしてレシピ開発や料理教室、魚食をテーマにした音楽イベントなどを仕掛け魚食普及に努めています。自ら捕って船上活〆したカラフトマスと道産食材を使い「ピンクサーモンパテ」を開発するなど加工品にも力を入れています。
農業・漁業交流賞 札幌市長賞
チームノースドラゴン(北竜町)
食の平和を守る!ご当地ヒーロー見参!
農協青年部、商工会青年部、役場若手職員が連携し、北竜町ご当地戦隊ヒーロー「アグリファイター・ノースドラゴン」を結成。小学校や保育園、成人式や地域イベントなどに出向き、ヒーローショーを通じて食の大切さを発信したり、北竜町の名産であるお米を中心とした農産物や北竜町の観光PR活動を行っています。
発案者は農協青年部ですが、商工会や役場も巻き込んで「町のヒーローをつくろう」という取り組みに展開。職業も年齢もバラバラな若い人たちが集まり、「20年後も元気にこの町で働きたい」を目標に町ぐるみで活動に励んでいます。職種を越えたグループ活動は、本業での他業種連携にもつながっています。
農業・漁業交流賞 特別賞
風の村(江別市)
自社農園で大豆やじゃがいも、さまざまな野菜を育て、ファームレストランで提供しています。併設する陶芸工房では陶芸体験を受け入れ。幼稚園給食の提供も行っています。ものづくりや農業を通じて完成を高める学びの場を提供しようとサマーキャンプを企画(のべ500名以上参加)するなどさまざまな交流活動を行っています。
幌加内高校(幌加内町)
幌加内高校は昼間定時制農業科高校です。全国で唯一の「そば」授業を行い、生徒全員が毎年70時間(3年間で210時間)、そばの栽培から収穫、製粉、そば打ち、ダシやかえしの作り方、ゆで方など調理に至るまでを一貫して学びます。日頃の学びの成果を発揮する場として幌加内新そば祭りへの出店、小中学校との交流事業を行っています。今年度は新たに「幌高商店会」をスタート。そば店、パン店など仮想店舗6店舗を生徒が主体的に運営し、6次産業化教育の実践の場となっています。
岩見沢農業高校(岩見沢市)
岩見沢農業高校の生徒が地元小学校4年生以上の児童とその親を対象に食育事業「岩農食農塾」を実施。4月の入会式から11月の修了式までに、原料生産活動(田植え・稲刈り等)、食品製造活動(ソーセージ作り等)、地域連携活動(玉ねぎ農家・選果場視察)、調理活動、学習活動などを行います。前身の「岩農Kid's Club」から数えて5年目の今年度は宿泊体験を新たに取り入れ、より充実した内容になりました。地域と連携しながら高校生と小学生がともに育つ食育活動を展開しています。
農業・漁業交流賞 奨励賞
ふるさとファーム(札幌市)
2011年に新規就農した東海林さん。養護施設へ規格外野菜を提供したことからつながりが生まれ、「彼らに広い畑で農業体験をしてもらえたら」と思い立ちます。2012年にNPOを立ち上げ、養護施設の小学生の受け入れをスタート。運営には近所の農家さんや町内会、子どもたちにとっておじいちゃん・おばあちゃんに当たる世代などに声をかけていって協力を請い、地域と一体となった活動を展開しています。このほか、地域や札幌市内の子どもたちを対象とした農業体験も実施しています。
網走川流域農業・漁業連携推進協議会
同協議会は津別町農業協同組合、網走漁業協同組合、西網走漁業協同組合の3団体連携により2011年に設立されました。網走川流域の基幹産業である農業と漁業に従事する方々が、網走川の自然環境を次世代に引き継ぐため、出前授業(食農教育)や網走湖の視察研修、津別町での植樹活動などを協同で行っています。2015年からはこの活動を流域地域全体に広げるため、網走・大空・美幌・津別の1市3町・56団体にネットワークを拡大し、研究や情報共有・発信、環境保全の取り組みを進めています。
ビジネスモデル賞 優秀賞
ニセコ高橋牧場(ニセコ町)
1997年にミルク工房を立ち上げてアイスクリームの製造販売を開始。2004年には「店まで来店してもらうために」洋菓子作りを開始します。「来店してくれたお客様にランチを提供したい」と2011年にはレストランをオープン。2016年にはチーズ工房と、自家製チーズを使ったピザのお店をオープン。現在は年間来客者30万人、牧場・工房・レストランの売り上げは6.3億円に上ります。当初は従業員5名からのスタートでしたが、現在は55名に増え、地域の雇用にも貢献しています。
白糠酪恵舎(白糠町)
白糠酪恵舎は2001年に地域酪農家14戸(17名)と有志の計20名により設立されたチーズの製造会社です。酪農家は出資者となって原料となる生乳を供給し、チーズ製造は非農家が運営しています。少量生産でストーリーを付けて高く売るのではなく、よいものを一定の規模で生産し、できるだけ買いやすい価格で提供しています。レストランへ直接卸しているほか、地元に普及するよう宅配事業も展開し、地元イベントにはほぼすべて参加するなど、地域に根ざしたチーズ工房をめざしています。
ビジネスモデル賞 奨励賞
留萌・麦で地域をチェンジする会(留萌市)
パスタにぴたりの超硬質小麦「ルルロッソ」。その栽培は2009年秋に一人の生産者によってはじまりました。翌年夏の収穫を前に生産、加工、製造、流通等にかかわる14団体が中心となり「南留萌・麦で地域をチェンジする会(後に改名)」を立ち上げ、商品化や販売体制の準備を進めます。2011年に「生パスタ RuRu Rosso」の商品化が実現。現在は全国30以上の飲食店で採用されています。生産者は11戸に増え、年間100tの小麦を生産。地元食材を使ったパスタソースなどの開発も進めています。
しあわせチーズ工房(足寄町)
放牧飼育による循環型釧路を実践する「ありがとう牧場」(足寄町)。チーズ職人・本間幸雄さんはそこで牛飼いをしながら敷地内の建物を借りて2013年に「しあわせチーズ工房」を開設しました。チーズ造りの基盤を固め、2016年に独立。同年国産ナチュラルチーズコンクール「ジャパンチーズアワード2016」でハードタイプの「幸」が金賞に選ばれました。また石田めん羊牧場など地域の生産者と連携して「あしおこし隊」を結成。町内の人に向け、町内の生産物をアピールする活動を行っています。
寺坂農園(中富良野町)
2004年からダイレクト・マーケティングを取り入れ、直販・通販による売上を拡大。現在ではメロン全量を直接販売で売り切る農業経営を実現してます。お客様の喜ぶことを考えて農業に打ち込み、その姿、想いをSNSやブログ、メルマガを通じて発信しつづけることで多くのファンとつながり続けています。2015年には販売管理システムを自社開発。販売面、マーケティングだけでなく、受注販売の実務面にもITを活用しています。同年『攻めのIT経営中小企業百選」に選出されました。
北海道農業・漁業貢献賞 優秀賞
北海道農業・漁業貢献賞は第10回を記念して特別に解説されました。
過去の受賞者を対象に、受賞以降に新たな農業チャレンジ、6次化の取り組み、地区活性化の取り組み等、全道生産者のモデルになる取り組みを行ている個人・企業及び団体に贈られます。
多田農園(上富良野町)
第9回コープさっぽろ農業賞(2014年)において交流賞部門の札幌市長賞を受賞。2016年秋に念願だったワイナリーを開設しました。自社農園のピノ・ノワールなどを原料に、野生酵母を使って100%農園産のワインを製造しています。旅行会社と連携してワインツーリズムの受け入れも行い、都市と農村の交流を図っています。
奥尻潜水部会(奥尻町)
第6回コープさっぽろ農業賞(2009年)において特別賞を受賞。無菌海水を使用した塩水ウニのブランド化に成功したあとも、ホタテの養殖や青ツブを使った加工品の開発など、漁業者が連携して「島の6次産業化」に取り組んでいます。島の小学生や中学生の食育やキャリア教育にも協力。島内外での交流活動にも積極的です。