第5回 ニラ畑に広がる、知内の未来(知内町ニラ生産組合)

“北の華”のブランド名で知られる知内特産のニラは、1971年に発足された生産者組織『知内町ニラ生産組合』が長い時間をかけ、力を合わせて守ってきた町の宝物です。
“みんなで支え合い、高め合う”同組合の取り組みは、2007年、第4回農業賞で奨励賞を受賞しています。
作り手が切磋琢磨しながら、みんなで進化を続ける今。
組合長の大嶋貢さんが描く「これからの景色」とは。

取材・文/青田美穂
撮影/細野美智恵

全員が「昨年の自分を超えていく」

以前に「Cho-co-tto」の取材で大嶋貢(おおしまみつぐ)さんのニラ畑を訪れたのは、2016年のこと。それから丸4年、大嶋さんは変わらぬ笑顔で迎えてくれました。再訪したのは、町が一年で最も盛り上がる大イベント『しりうちカキVSニラまつり』当日。開場前から長い行列ができ、知内町ニラ生産組合のブースでは自慢の“北の華”が文字通り、飛ぶように売れていきます。

  • 販売ブースでは箱買いする人が多数! 販売ブースでは箱買いする人が多数!
  • “北の華”の根強い人気を改めて実感しました “北の華”の根強い人気を改めて実感しました

 「昨年末から今年にかけては例年にない暖冬でしたが、無加温栽培のニラにとっては好条件で、甘みを蓄えながら順調に生育しています。今季のニラは全体に出来がとても良く、葉は肉厚で幅広、ここ数年で見ても屈指のボリュームです。また収量も順調で、たくさんのニラを流通することができ、多くの方々に“北の華”をお届けできることに喜びを感じています」。

4年前の取材時から、何か変化はありますか?と質問すると、大嶋さんの表情が少し引き締まりました。

 「大きく変わったことがあります。それは生産者の作業省力化のための“共撰の再編成”。これまではずっと、収獲したニラは生産者自らが計量と結束までを行っていました。その作業を思いきってすべて機械化し、生産者は生産に注力できる環境を整備したのです」。

そうすることによって、何が変わったのか?作り手の方の負担が軽減されたのはもちろんですが「一番は生産者の気持ちが変わりました」と、大嶋さん。

 「ひと言でいえば、みんなが“自分への挑戦”を始めるようになったという感じですね。それまでニラは、他の畑作など複合経営のうちの一つという捉え方が強く、作り手もそういう意識だったと思います。ですが、知内町の特産品としてニラの知名度が上がり、ウェイトも年々増加しています。生産に関する環境が整備されてくるとなおさらで、収量が上がればパートさんを含めて人の雇用が増えるため、戦略的な出荷量への挑戦が求められます。『どういう作り方をして、いつ、どれだけニラを出荷するか』、各々が“昨年の自分を超えたい”と目標を高く持つようになってきました」。

<p>現在、68戸が組合に所属し、切磋琢磨しながらブランドニラの品質を守っています</p>

現在、68戸が組合に所属し、切磋琢磨しながらブランドニラの品質を守っています

優しくも厳しい、仲間の目

今から13年前、知内町ニラ生産組合は、町内の“ほうれん草生産組合”と合同で奨励賞を受賞。選ばれた理由は「組合間の情報共有や栽培管理技術の統一化、共同利用機械の導入などを行い、組合員相互の信頼関係で運営されている」というものでした。

 「私が組合長になったのは受賞の4年後で、9年目を迎えます。農業賞で評価していただいた“みんなでやる、チームでやる”というのは組合の揺るぎない柱であり、今後も変わらず守っていく理念でもあります。ハウスのビニールかけも、組合員が班にわかれてそれぞれの畑に行き、よその畑も自分の畑も関係なく、全員で助け合って作業するのがルール。人の畑に行くと、自分の畑との状況が比較できますし“北の華”というブランドニラをみんなで作っている以上、これはちょっと…と思ったら率直に『やり方悪いよ、こうした方がいい』と、作り手同士がオープンに話すようにしています」。

  • 葉を傷つけないように、一株ずつ慎重に手で刈り取っていく収穫作業 葉を傷つけないように、一株ずつ慎重に手で刈り取っていく収穫作業
  • 採れたてのニラはみずみずしく、切り口から水分がどんどん溢れ出します 採れたてのニラはみずみずしく、切り口から水分がどんどん溢れ出します

皆さんニラ作りのプロ、とはいえ、自分の畑しか見ていないと、つい目が甘くなってしまうこともあります。同業者が入ってくることで「恥ずかしいものは見せたくない、作りたくない」という意識アップにつながっていると大嶋さんは話します。

 「課題は毎年いろいろありますよ。個々の生産者それぞれのレベルアップはもちろんのこと、組合には68戸のニラ生産農家がいますので、同じ方向を見ていても、作るニラが全員同じとはいきません。共撰にも同じことが言えて、自分で計量、結束をしているときは気付かない点や多少目をつぶってきたこともあったかもしれません。ですが、今は“裸のニラ”を委ねることになり、機械と第三者の目が規格や品質を厳密に判断します。ハードルがさらに厳しくなり、個々によるバラつきは一目瞭然。作る側としてはプレッシャーが増えますが、そのハードルを超えようとする気持ちが、より良いニラ作りにつながっていくと考えます」。

永遠に変わらない絆

この“みんなでやる”体制は、高齢の生産者の方にとっても心強いサポートになっています。個人ではやれることに限界があり、年齢を重ねれば体力も落ちていきます。誰しもが抱える「いつまでやれるか?」という不安。ですが、知内町のニラ農家は「一人じゃない」という安心感があり、先行きの不安よりも「できる限りニラを作り続けよう!」と前向きな気持ちにスイッチできているそうです。

 「最近、私が嬉しいなと感じているのは、町内のあちこちの農家に“後継者が戻ってきていること”。私にも息子がいますが、自分たちが受け継ぎ育ててきた“北の華”を、次時代を担う20~30代が受け継いでくれることに、とてもワクワクしています。未来を作っていく彼らに伝えたいのは“人の輪づくり”と“理念をつなぐ”、この2つです。来年で当組合は設立50周年を迎えます。ここまで来られたのは、自分のことだけではなく『みんなで足並みを揃えてやってきたから』だと思っています。先代たちから変えずに守ってきたこの理念を、ずっと大切にして、永遠に受け継いでいってもらいたいですね」。

息子さん世代が活躍するころ、大嶋さんの目にはどんな景色が見えているのでしょう?
「難しい質問だなぁ」と笑いながら、こう答えてくれました。

 「畑から離れてのんびり暮らしているかもしれませんね。うん、それもいいなぁ(笑)。でも、やっぱり畑に立って、ニラに寄り添っているんじゃないかな。そう思いますね」。

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