2025.4.15
-Story01- ミツカン220年の歴史でも最難関のチャレンジでした


もし今、あなたのそばにバターとぽん酢があったら、試しに混ぜてみてほしい。固体のバターと液体のぽん酢は簡単には混ざらないはずです。バターを加熱して溶かせば混ざるものの、しばらくすると分離してしまいます。商品化にあたってもこの問題が立ちはだかりました。ミツカン史上最大の難問に挑んだ与那城さんと田中さんに話を聞きました。


——さっそくですが、「バタぽん™」商品化の経緯を教えてください。
田中 2024年11月10日に味ぽん®が誕生から60周年を迎えました。現在は鍋料理やサラダ、冷奴など、さまざまな料理に使われる味ぽん®ですが、もともとは水炊き専用の調味料として開発されました。日本にはその土地その土地で愛されるグルメや、地域に根ざした名産品が数多くあります。私たちミツカンは味ぽん®60周年を機に、「今一度お客さまのもとへ出向いて、地元の人や土地、文化とつながりながら、地元を盛り上げたり、地元を味わい尽くすお手伝いができないか」と考え、「地元を味わう™ 味ぽん®」というシリーズを立ち上げました。第1弾として2024年7月に発売したのが、「味ぽん® for 宇都宮餃子®」です。
この商品を手がける中で、誰からともなく「次は北海道だよね」という話になりました。「野菜も肉も魚もおいしい北海道の食を、味ぽん®でさらにおいしくしたい」と考えたからです。北海道への出張は、社内のみんなからうらやましがられました。[編集部注:ミツカンの本社は愛知県半田市にあります]
商品は、かねてからバター好き・ぽん酢好きの間で〈悪魔的おいしさ〉とまでいわれるバタぽん™を、北海道産バターで作ってみようということになりました。その後、縁あってコープさっぽろに共同開発の協力をいただけることとなり、2024年の春にプロジェクトが始動しました。
——どういった形で共同開発を行いましたか?
田中 コープさっぽろの組合員さんと職員の皆さんに、開発中のバタぽん™を試食していただき、意見交換を行って商品の方向性や細かな味の調整を行いました。試食会は2024年5月から8月まで、計4回実施しました。
与那城 バタぽん™と一言でいっても、バターたっぷりでコクのある調味料をイメージする人もいれば、酸味がくっきりとしたぽん酢メインの調味料を想像する人もいます。どこを落としどころにするのかというのは、開発側としてはすごく迷いました。
私たちは当初、「北海道の人はバターの風味を強調した方が好むのではないか」と勝手に想像していました。ところが、バターをメインにした試作品と、ぽん酢をメインにした試作品を試してもらったところ、「味が濃くておいしい北海道の食材を、さっぱりと食べたいから、ぽん酢が効いた味がいいのでは」といった声を多くいただき、その方向性で進めることに決まりました。


——商品開発はどういう手順で進めましたか?
与那城 最初は、シンプルにバターとぽん酢を混ぜ合わせることから始めました。しかし、そのままではバターとぽん酢が分離してしまい、味の一体感も損なわれてしまいます。ぽん酢は酸性のため、特に油と分離しやすい性質があります。さらに、温度の問題も考えなければなりません。
店舗では常温で棚に並び、開封後は冷蔵庫で保存していただく必要があります。こうした温度条件の中で、液体の状態をどのように保つか……、これが本当に難しい課題でした。そこで、原料メーカーの方々にもご協力いただき、冷蔵庫で冷やしても乳化を維持できる商品を開発しました。
——ちなみにどう解決したんですか?
与那城 企業秘密なこともあるのですが・・・乳化したバターとぽん酢が液体の状態を保てるように、それぞれを「つなぐ」材料を合わせた感じです。その調整はかなり苦労しました。
田中 ミツカンは創業から220年の歴史がありますが、その中でも指折りの難易度の高さだったと聞いています。
与那城 私、その年の春に別商品の開発チームから味ぽん®のチームに異動したばかりだったんです。で、最初に担当したのがバタぽん™でした。チームの先輩も「またとんでもなく難しいものを任されたね」って。(笑)
田中 その難題をオーダーした犯人は私です……。与那城、ありがとう!!(涙)


——発売は2025年5月下旬と聞いています。最終的にどんな商品に仕上がったのでしょうか。
与那城 さっぱりとした味ぽん®をベースに、コクと風味の強い発酵バターを合わせたことで、コクがあるけどさっぱりとした味を実現しています。味ぽん®とバターが調和するよう野菜だしを加えてまろやかさを出し、白コショウ、香味オイルで少し輪郭を立たせました。
田中 今回の商品開発では、バターマニアの長尾絢乃さんにも協力いただきました。長尾さんはよく、「芳醇でコクのあるバターの香りは、人を幸せな気持ちにさせてくれる」と仰います。バターの魅力は、この多幸感にあると思います。バタぽん™は、最初に発酵バターの香りがふわっと来て、次にバターのコクと厚みが広がります。多幸感に包まれる瞬間です。そして最後に爽やかな柑橘の香りとすっきりとしたぽん酢の酸味でキレる。キレるから、またあの多幸感が欲しくなる。そういう品質設計に与那城が仕上げてくれました。
与那城 味ぽん®はつけたり、かけたりの「調味」がメインですけど、バタぽん™は炒めたり、蒸したりする「調理」にも向いています。加熱することで発酵バターの香りの立ち方も変わります。北海道の野菜やお肉、お魚をさらにおいしくするということを念頭に置いて作った商品ですので、ぜひ、さまざまな料理に活用していただけたらと思います。
——発売が待ちきれません! 今回、コープさっぽろと一緒に商品開発をしてみて、いかがでしたか?
田中 これまでは外部の方に監修という立ち位置で関わっていただくことはあっても、生活者の方と一緒に商品の方向性を決める段階からつくるというのは、私が知る限りミツカンとしては初めてだったと思います。開発の段階から生の声を聞けたし、しかもそれを一度ならず4回も実施できた。商品開発のプロセス自体が価値になっていると実感しています。
与那城 私自身は本当に壁にぶつかってばかりの商品開発でした。完成までに作ったサンプルは100を数えます。試食会で北海道に来るたびに、どう評価されるのか不安でものすごく緊張しました。毎回コープさっぽろの組合員さんや職員の方にアンケートを書いていただくのですが、フリーアンサーの欄にびっしりと、中には枠の外まで書いてくださる人もいて、圧倒的な熱量を感じました。味に関することから、「こういう料理に使っては?」というアイデア、開発者の立場になってご意見をくださる方もいて、商品開発のヒントになったし、なによりも皆さんの声に励まされました。涙が出るほどありがたかったです。
田中 コープさっぽろの皆さんには、商品開発の場面でも、発売前のイベントでも、たいへんお世話になりました。今回の開発プロジェクトではテレビのオーディション番組のように、デビューするまでの過程を皆さんに見守っていただき、一緒に盛り上げてもらいました。発売後もぜひ、これまで以上に自分たちの商品として愛し、バタぽん™と料理との組み合わせや、新しい使い方のアイデアの発信を通して、バタぽん™を育ててもらえたらうれしいです。
Story02では発売前イベントの様子をリポートします!